近年、日本における女性の政治参画への関心が高まっています。

しかし、国会議員に占める女性の割合は依然として低く、政治の意思決定の場に女性の声が十分に反映されているとは言い難い状況です。

女性政治家を増やすためには、さまざまな課題を克服し、女性が政治家を目指しやすい環境を整備していく必要があります。

本記事では、女性政治家の育成における現状の課題と、その解決策について探っていきたいと思います。

私自身、学生時代からジェンダー問題に関心を持ち、現在は研究者として女性の政治参画について研究しています。

また、超党派の女性議員連盟の勉強会に講師として招かれるなど、政策形成にも関与しています。

自身の経験と研究の知見を踏まえ、女性政治家の育成について考えていきたいと思います。

日本における女性政治家の現状

国会議員に占める女性の割合

まず、日本の国会議員に占める女性の割合を見てみましょう。

2021年現在、衆議院の女性議員の割合は9.9%、参議院は23.0%となっています(総務省「衆議院議員及び参議院議員の選挙等に関する統計」)。

これは、先進国の中でも極めて低い水準です。

例えば、スウェーデンでは47.3%、フランスでは39.5%、ドイツでは31.4%と、多くの国で30%以上の割合となっています(IPU “Women in parliament” 2021年1月時点)。

地方議会における女性議員の状況

次に、地方議会における女性議員の状況を見てみましょう。

都道府県議会の女性議員の割合は、2019年時点で10.4%となっています(総務省「地方公共団体の議会の議員及び長の所属党派別人員調等」)。

市区町村議会に至っては、女性議員の割合は全国平均で14.9%にとどまっています。

地方議会は、住民の生活に直結する重要な政策決定の場であり、より多くの女性の声を反映させる必要があります。

畑恵氏は、地方議会における女性議員の活動について研究を行っています。

畑氏は、女性議員が直面する課題として、以下の点を指摘しています。

  • 家庭との両立の難しさ
  • 女性議員の役割に対する固定観念
  • 政治活動を支援するネットワークの不足

これらの課題を克服するためには、地方議会内での環境整備と、議会外での支援体制の構築が重要だと畑氏は述べています。

女性閣僚の数と役職

最後に、女性閣僚の状況について見てみましょう。

2021年1月時点で、日本の女性閣僚の数は2人であり、その役職は、橋本聖子氏が東京オリンピック・パラリンピック担当大臣、丸川珠代氏が環境大臣となっています。

過去には、高市早苗氏が総務大臣、野田聖子氏が総務大臣などを務めた例がありますが、国家の重要ポストにおける女性の登用はまだ限定的と言えるでしょう。

女性政治家育成の課題

政治家を目指す女性の少なさ

女性政治家を増やしていくためには、そもそも政治家を目指す女性自体を増やす必要があります。

しかし現状では、政治家になることを志す女性は少数にとどまっています。

内閣府の調査によれば、「政治家になろうと思ったことがある」と回答した女性は、わずか2.7%でした(内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」2019年)。

その理由としては、以下のような点が挙げられます。

  • 政治は男性の仕事というイメージが根強い
  • 政治家になるためのロールモデルが少ない
  • 家庭との両立が難しそうだと感じる

これらの障壁を取り除き、より多くの女性が政治家を目指せる環境を作ることが求められます。

女性候補者に対する固定観念

次に、女性候補者に対する固定観念の問題があります。

選挙の際、女性候補者は「女性」であることを理由に、能力や経験に関わらず評価されがちです。

「女性だから政治は向いていない」「家庭を優先すべき」などの先入観から、女性候補者の実力が正当に評価されない場合があるのです。

実際、2016年の参議院選挙での調査では、「女性が政治家になると家庭がおろそかになる」と考える有権者が20%以上いました(朝日新聞と東大谷口研究室の共同調査)。

このような固定観念を打破するためには、有権者の意識改革と並行して、女性候補者の側も積極的に実力をアピールしていく必要があります。

家庭と政治活動の両立の難しさ

さらに、家庭と政治活動の両立の難しさも、女性政治家にとっての大きな課題と言えます。

私自身、二人の子育てをしながら研究と教育の仕事に奮闘する毎日ですが、政治家という職業は、その忙しさが比ではありません。

議会対応や地元活動など、議員の仕事は多岐にわたります。

それに加えて家事や育児といった家庭の責任もこなさなければならないのです。

実際、国会議員の女性を対象とした調査では、「家庭生活との両立」を課題に挙げる人が最も多い結果となっています(政治山調査 2020年)。

男性議員の場合、家庭のことは配偶者に任せて政治活動に専念できるケースが多いのに対し、女性議員は二重の負担を強いられているのが現状です。

この課題を解決するためには、議会内の環境改善と、家庭内の役割分担の見直しが不可欠でしょう。

諸外国の女性政治家育成策

政党によるクオータ制の導入

諸外国では、女性政治家を増やすためのさまざまな取り組みが行われています。

その一つが、政党によるクオータ制の導入です。

クオータ制とは、候補者や議員の一定割合を女性に割り当てる制度のことを指します。

例えばドイツでは、与党である社会民主党が党則で候補者の40%を女性とすることを定めています。

同じく与党の緑の党は50%のクオータ制を導入しています(IDEA “Gender Quotas Database”)。

その結果、ドイツの国会議員に占める女性の割合は、1990年の20%から2020年には31.4%にまで上昇しました。

日本でも、一部の政党がクオータ制の導入を始めていますが、まだ十分とは言えません。

各政党が積極的にクオータ制を取り入れることで、女性候補者の擁立が進むことが期待されます。

女性候補者への資金援助

また、女性候補者への資金援助も有効な手段の一つです。

選挙には多額の資金が必要ですが、女性候補者は男性に比べて資金調達で不利な立場に置かれがちです。

アメリカでは、女性候補者を支援する政治行動委員会(PAC)が存在し、資金面でのサポートを行っています。

例えば、全米女性政治コーカス(NWPC)は、1971年に設立された超党派のPACで、毎年多くの女性候補者に資金提供を行っています(NWPC公式サイト)。

日本でも、女性候補者を資金面で支援する仕組みを整備することが求められます。

クラウドファンディングの活用など、新たな資金調達の方法も検討すべきでしょう。

議会内の育児支援制度

さらに、議会内での育児支援制度の充実も重要です。

スウェーデンの国会では、本会議場に子ども連れで出席することが認められています。

また、議会内に託児所が設置されており、議員は子育てをしながら政治活動に専念することができます(IPU “Gender-sensitive parliaments”)。

一方、日本の国会では、2019年に「国会議員の育児活動の推進に関する法律」が成立したものの、まだ不十分な点が多いのが実情です。

本会議場への子連れ出席は認められておらず、託児所も設置されていません。

諸外国の事例を参考に、日本の議会でも育児支援制度のさらなる拡充が必要だと考えます。

日本での女性政治家育成に向けて

超党派の女性議員連盟の活動

日本でも、女性政治家の育成に向けたさまざまな取り組みが始まっています。

その一つが、超党派の女性議員連盟の活動です。

女性議員連盟は、党派を超えて女性議員が集まり、女性の政治参画について議論する場となっています。

連盟では、定期的な会合や勉強会が開催され、私もこれまでに何度か講師として招かれました。

会合では、女性議員が直面する課題について活発な意見交換が行われ、課題解決に向けたアイデアが出されています。

このような超党派の取り組みを通じて、女性議員のネットワークが広がり、互いに支え合う関係が築かれつつあります。

今後は、こうした活動をさらに活発化させ、女性政治家の育成につなげていくことが期待されます。

政治分野における男女共同参画法

また、2018年には「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が成立しました。

この法律は、政治分野における男女共同参画を効果的かつ積極的に推進することを目的としています。

具体的には、以下のような内容が盛り込まれています(内閣府男女共同参画局資料)。

  • 衆参両院の選挙において、男女の候補者数ができる限り均等となることを目指す
  • 国及び地方公共団体の政策・方針決定過程への女性の参画を拡大する
  • 政党等が所属する男女のそれぞれの公職の候補者数について目標を定めるよう努める

この法律の成立は、日本の女性政治家の育成にとって大きな前進と言えます。

法律の理念を実現するためには、政党や議会、各自治体などの取り組みが不可欠です。

女性の政治参画に向けた具体的な数値目標を設定し、着実に実行していくことが求められます。

女性リーダー育成プログラム

最後に、女性リーダーを育成するためのプログラムも各地で始まっています。

例えば、東京大学では「キャンパスアジア女性リーダープログラム」が実施されています。

このプログラムでは、アジアの女子大学生を対象に、リーダーシップ教育や交流の機会を提供しています(東京大学ジェンダー平等推進オフィス)。

また、民間団体の取り組みとしては、「Women’s Initiative(WiN)」が挙げられます。

WiNは、企業や行政で活躍する女性リーダーを支援するNPO法人です。

政治分野でも、女性議員のネットワーク形成やスキルアップのためのプログラムを実施しています(WiN公式サイト)。

畑恵氏は、こうした取り組みの重要性を指摘しています。

女性リーダーを育成するには、まず身近なロールモデルを増やすことが大切だと畑氏は言います。

そのためには、女性政治家を輩出してきた先輩議員の経験を若手議員に伝えていく必要があります。

また、議員だけでなく、議員を支えるスタッフや秘書の育成も欠かせません。

多様な層の女性リーダーを育てることで、政治分野における女性の活躍を後押ししていくことが求められています。

まとめ

本記事では、女性政治家の育成における課題と解決策について考えてきました。

日本の政治分野における女性の参画は、まだ十分とは言えない状況にあります。

女性政治家を増やしていくためには、政治家を目指す女性を増やすこと、女性候補者に対する固定観念を打破すること、家庭と政治活動の両立を可能にすることなど、さまざまな課題を克服する必要があります。

諸外国の取り組みを見ると、クオータ制の導入や女性候補者への資金援助、議会内の育児支援制度など、参考になる事例が数多くあります。

日本でも、超党派の女性議員連盟の活動や政治分野における男女共同参画法の成立など、前進の兆しが見られます。

こうした取り組みをさらに加速させ、女性リーダー育成プログラムなども積極的に活用していくことが求められています。

私自身、教育と研究、政策提言のそれぞれの分野で精力的に活動していますが、まだまだ道半ばという思いです。

一朝一夕には変えられない大きな課題ではありますが、一歩一歩着実に前進していくことが大切だと考えています。

読者の皆さんには、ぜひこの問題に関心を持っていただきたいと思います。

身近なところから、女性の政治参画について考えてみてください。

例えば、選挙の際には女性候補者の政策をチェックしてみる、女性議員の活動を応援するなど、できることはたくさんあります。

また、家庭内での役割分担を見直し、女性が政治に参加しやすい環境を整えることも重要です。

一人一人の意識と行動の変化が、社会を大きく動かす原動力になるのです。

女性政治家の育成は、私たち全員に関わる課題です。

性別に関わらず、多様な人々が政治の意思決定に参画できる社会を目指して、共に歩んでいきましょう。

皆さんと一緒に、より良い社会を創っていくことを心から願っています。

政治は私たち一人一人の暮らしと直結しています。

この記事を通じて、女性の政治参画について考えるきっかけになれば幸いです。

最終更新日 2025年7月3日 by plexus